2008年02月25日

スキャナー。

リチャード・リンクレイター 『スキャナー・ダークリー』(2006) ★8.1

これはフィリップ・K・ディックのSF小説『暗闇のスキャナー』が原作の近未来サスペンス。リチャード・リンクレイターが2001年の『ウェイキング・ライフ』で試みた「ロトスコープ」と呼ばれるデジタル・ペインティングの手法(実写データを2Dに起こしたもの)が本作でも使われています。
ネタバレになるとつまらないのであまり詳しく書けないんだけど、一応このややこしいストーリーを説明すると、ドラッグが人々に蔓延している近未来社会、なかでも「D」と呼ばれる薬が流行っててその密売組織を摘発する為に、キアヌ・リーブス演じるボブが覆面捜査官としてヤク中グループとツルんで彼らを監視しているんだけどボブ自身もすっかりドラッグ中毒になってしまっていて、ボブの外見や素性などは彼の上司にも情報公開されてないもんだから(変な百面相みたいなスーツを麻薬捜査官はみんな身に纏っている)、ある日、「コイツ(←ボブのこと)を監視しろ」っていう命令がボブ自身に下されて、捜査官としてのボブとジャンキーとしてのボブが徐々に乖離していって、アイデンティティに支障を来たした彼は「ニュー・パス」という薬を断つ為の施設に隔離されてしまう(ちょっとあらすじ混乱してます)。
んで、こっから先、隠されていた陰謀などがラストに向けて露になっていくんですが、それは実際観てもらうとして、何はともあれこのサスペンスな部分が前傾化してくるまでが実は結構長くて(70分過ぎぐらい?)、それまではずっとドラッグ仲間の頽廃的でダメダメな日常の描写が続いて正直かなり退屈です。ボブが精神的にヤバくなっていってるのも実際あんまりよく分からないし、全体的になんとなくノンビリした雰囲気が流れてて、アイデンティティの危機とか社会がドラッグ漬けになってる恐怖とか、そんなに伝わってこないんですよね。オチでやっと「ああ、そういうことなのか」って、この世界の絶望具合を実感するに至るんだけど、どうせだったらこのラストを早めに持ってきて、その先を描けたんではなかろうかとも思うし、この救いのないラストで終わらせたければ前半とかはもっといろんな動きのある展開をさせた方が観てて面白かったんじゃないか。あのラストのロボトミーで痛々しい感じの終わり方は僕は割と好きだけど(SF小説って僕の中ではああいう雰囲気がある)、全体のストーリー構成にちょっと疑問が残りますね、コレは。是非ともディックの原作を読んでみたいす。



予告。↓

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ディパーテッド。

マーティン・スコセッシ 『ディパーテッド』(2006) ★7.7

2002年に香港で製作されたヒット作『インファナル・アフェア』を、マーティン・スコセッシ監督がディカプリオやマット・デイモンらを起用してリメイク。今作で監督のスコセッシは、念願のアカデミー賞(作品賞、監督賞etc.)を受賞したのは記憶に新しいところです。
ストーリーは、香港ノワールっぽいパッキリとした筋立てで、ディカプリオ演じるビリーが警察からマフィアに潜入捜査を命令された警察官で、逆にマット・デイモン演じるコリンがそのマフィア組織から警察に送り込まれたスパイ。互いが互いの潜入している組織の情報をリークしていて、次第に警察、マフィア共々内部の裏切り者の存在に気付き始め、互いの組織が混乱していくという犯罪アクション映画です(なんとなくキラとLの闘いを彷彿とさせるものが。でも頭脳戦って感じでもない)。
最初にこの筋書きを聞いた時、囚人と看守の心理実験の話を僕は思い浮かべて、ディカプリオとマット・デイモンが本来の任務を逸脱していってどんどんそっち側の心理になっていって、終いには僕ら観客もコイツが今どっちの側の人間なのか予想がつかないようなサスペンスフルな展開になっていくのかと想像したんですが、そんなことにはならなくてちょっとガッカリ。もっとそこらの心理描写を混乱させていったらワクワクしたのにな、きっと。とはいえ、意外にもディカプリオがなかなか迫力ある好演を見せてくれますが(警官なのにマフィアとして生きなきゃいけない辛さが良く出てます)、裏社会モノにしては些か緊張感に欠ける印象もあって、全体を取り巻く殺気が足りない。マフィアの親玉であるジャック・ニコルソンもあんまり怖くないし。さも今人を殺してきたっていう感じで手やシャツが血だらけになってるボスを見て、潜入捜査中のビリーが超ビビってたけど僕は全く怖いと思えず、むしろちょっと笑えたぐらい。このへんの「マジで殺される感」が出せるかどうかで犯罪アクションモノは良し悪しが決まりそう。スコセッシは人物のアップが多いんだけど、引いた時の画がかなり野暮いです。

でも、なんだかんだ言っても、マフィアの一味が警官隊に包囲されて皆殺しになるっていうペキンパーな場面は泣けますね。ボスの親友でもあり、片腕でもあるフレンチが渋くてイイ。



予告。↓


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2008年02月21日

躁なんです。

『問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ』 春日武彦 ★6.5

光文社新書から出た、最近結構売れっ子な感じの精神科医、春日武彦氏の新刊です。著者は小説家の平山夢明とも対談などしているように、現役の精神科医には珍しく狂人に対する知的好奇心をあまり隠そうとしない人物というか、結構ぶっちゃけて面白がれる人って感じで僕はそのノリが好きなんですが、これは新書っていうこともあるのか、いまいちどこにも突っ込んでいかないようなサラッとした感じがあってちょっと物足りなかったですね。僕はずっと躁についての本が読みたいと思ってて(単純に事例が面白そうだから)、なかなか良さそうなのがなかった矢先にコレを見つけてホクホクしながら読んだんだけど、不謹慎ながら僕が目当てにしていた躁病患者の面白い事例もそんなに思ったより載ってなくて、かといって学術的に深められてるような感じもなく、ホントに躁についての触り程度っていう内容でした。これを読むと、躁っていう病気は基本的にスゴく分かり易い心性の元に発現してるらしくて、つまり、金とか名誉とか性欲とかのかなり下世話な欲望に動かされてて思ってたよりも俗っぽい。本人たちはそのままノリノリで人生に幕を下ろせればそれが一番幸福かも知れないんだけど、大体、借金苦に陥ったり、周囲の人の信用を失ったりして自暴自棄な事件を起こして逮捕されて、留置場で目が覚めるみたいな救われないパターンが多くて、著者も書いているように「躁の人について語ると、その語り手は鬱になっていく」っていう、躁とは対照的などんよりムードがなんとなく本書を覆っていて、なんか少しへこみました。彼らは僕らと全く異質な人間っていう訳ではなくて、僕らの持っている内なる欲望を最大限に体現しているような存在で、何となくその解放感が羨ましくもあるんだけど、でも著者曰く、彼らはどこか無理矢理テンションをアゲている感じがあって、それは常に躁状態を維持し続けないと全てはオシマイになってしまうっていう不安に苛まれているかのようで、それが痛々しくもみっともない印象を与えると語っていて、自分がそんなんなったらと思うと普通に嫌な気分になりました。

でも、周りを見回すと、なんかに急き立てられてるかのように無理にアゲてる人って割といるような‥‥。

ラベル:精神病 新書
posted by ケニー at 16:55| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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