2008年07月29日

エレGY。

『エレGY』 泉和良 ☆8.9

チョー久々に小説のレビューです。ホントちょっと前から全然本読まなくなっちゃってレビュー書こうにもネタがなかったんですが、最近になってやっとこさ読書欲が出てきたっぽいので一安心です。このままどんどん頭がバカになっていったらどうしようと思ってました。

という訳で、今回の作品は講談社BOXから出た7月の新刊、第二回講談社BOX新人賞・流水大賞優秀賞受賞作(長いな)にて、乙一や滝本竜彦各氏も絶賛っていう触れ込みで「どれどれ〜?」とばかりに気になって手に取った新人作品です。講談社BOXっていうと僕のイメージでは清涼院流水とか舞城王太郎とか西尾維新とかの講談社ノベルスの流れに連なる新本格メタミステリなややこしくもめくるめくセカイ系レーベルという認識が強くて、『エレGY』も当然そういう感じの講談社の秘蔵っ子か!?と思ってたんだけど、意外にもコレはもの凄くシンプルなラブストーリーでまずその直球なところにちょっとビックリした。

とりあえず、あらすじを紹介しておくと、著者と同名の主人公・泉和良(26歳)は「ジスカルド」というハンドル・ネームを名乗ってフリーウェアの自作ゲームをネットで公開し、そのゲーム関連のグッズ販売(サントラのCDとかファンブックなど)で生計を立てている同人ゲームクリエイター。しかし、当然ながら収入は安定しないし、家賃やら公共料金やらの滞納もしょっちゅうでホントにその日暮らしの生活を続けている。今更就職するなんてどうしても自意識が許さない泉は生活する為と自分を偽りながら、いつしか万人受けするような内容のゲームばかりを作るようになるが、そんな自己欺瞞にも頗るうんざりで自らの無能感だけが日を追うごとに肥大していく。そして、ある日全てが嫌になって血迷った泉ジスカルドは自身のサイトの日記ページに、ほとんど発狂に近い形で「女の子のパンツ姿の投稿写真募集!!!!」という旨の激しくイタい書き込みをしてしまう。次の日、底知れぬ虚無感ともに即座に消されたエントリだったが、見ると一件のメールが来ており、まさか‥‥と疑いながらも開いた添付ファイルには、「エレGY」と名乗る女の子のパンツ姿が写っていたのだった‥‥。

という感じの導入で、ここだけ読むと一見ドタバタラブコメ調に思えるけど実はもっとずっと切実な純愛小説で、これは最近の佐藤友哉の諸作『1000の小説とバックベアード』とか『灰色のダイエットコカコーラ』とかに共通するテーマ、自分の中に存在する拭い難く厄介極まりない自意識と如何に向かい合い、そして乗り越えるかっていうそういう頗る感動的なビルドゥングス・ロマンで、僕はもうなんか正直泣けてしょうがなかった。

「こんなはずじゃない‥‥もっと出来るはずだ」と強く思いながらも、生活の為とか理想と現実は違うとか才能は一握りだとかいろいろな理由で何とか自意識を宥めすかして偽りつつ、苦痛でしかない目の前の雑事を吐きそうになりながらこなし、そうしてしばらくすれば全てに慣れ切ってもしかしたら人並みの生活は出来るかもしれないし、きっと出来るんだけど、でも絶対に安息は訪れないだろうっていう確信めいた絶望感やら空虚感はいつまで経っても燻ったまんまで、だったらもうホントにそれは簡単な話「やるしかない」訳でその「やるしかない」を主人公・泉に今一度与えてくれるのがジスカルドの作るゲームをずーっとずーっと四年間に渡って見守ってきた女子高生「エレGY」で、そんな彼女に出会い、泉はかつて自分が持ってて今は失われてしまった「光=勇気」を、エレGYを経由して再び取り戻す、と。

ラスト辺りで、エレGYから送られてきた初めてのメール(そこではまだ彼女はエリスと名乗ってる)に、泉が四年遅れの返信をするシーンがあって、ここでのメールのやり取りの場面は他に比べるモノがないぐらい素晴らしく美しい言葉のやり取り。これが中二病だというならそれはそれで全く構わないし、そんなのは全くもってどうでもいい。この著者は地の分よりも圧倒的にメールの文章やセリフといった口語表現が上手くて、本当に自分に語りかけられているような、とても気さくで親密な言葉。気付けば、もう、目から汗が止めどなく‥‥。



言い忘れてたけど、主人公の「泉和良」は現実の泉和良とほぼ同じ設定らしい。なので、その作者のフリーウェアゲームのサイト「アンディー・メンテ」のリンク貼っときます。手作り感満載のゲームの数々がヤバい。↓

http://f4.aaa.livedoor.jp/~jiscald/
posted by ケニー at 01:34| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月26日

最高のつくりもの。

安室奈美恵 『BEST FICTION』 ☆9.4

小室哲哉のプロデュースを離れ、新たなスタイルを模索し出した2002年『Wishing On The Same Star』から、9年ぶりにオリコン一位に返り咲くことになる最新シングル『60s 70s 80s』まで、新生・安室奈美恵の6年間の集大成となる、シングル全17曲を収めたベスト・アルバムです。

90年代を通して、小室哲哉とともにJPOPの頂点を極めたと言っていい彼女ですが、2000年代に入ってからは、CDセールスの不調、SAMとの離婚、息子の親権問題、実母・恵美子さんの訃報(これは1999年)とか、本当にめちゃくちゃ辛かっただろう時期を経て辿り着いたのが、本人曰く「最高のつくりもの」であるという本作で、そういった道程を思うと非常になんか、感慨深く、感動的な作品です。とはいえ、「ベスト・フィクション」の名の通り、ここには湿っぽいヒロイズムや苦境を乗り越えて作られたような汗臭さみたいなモノはなくて、あるのはキラキラしてて軽やかで、色っぽくてソウルフルで、力強くて解放的で実験的なダンスチューンの数々。苦難を二重写しにして泣くのは聴き手の勝手だけど、僕が思うにこのアルバムはそういうのを望んでいなくて、安室ちゃん本人ももうそこには留まっていないようなそんな感じを受けます。だからこその「フィクション」だし、「フィクション」じゃなければ到れないそのリアリティに、僕も頑張らないとな!って素直に励まされます。どの曲もちょーカッコいいしね。

しかし、新生・安室ちゃんはカラオケで歌うには総じて難しい!



カッコ可愛すぎなPV。買うならDVD付きですよ、絶対。

#4「Put 'Em Up」↓



#8「GIRL TALK」↓

タグ:HIPHOP JPOP R&B
posted by ケニー at 21:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月24日

コケッコー。

山下敦弘 『天然コケッコー』(2007) ☆8.5

僕は読んだことないですが、くらもちふさこの同名コミックが原作で、監督が『ユメ十夜』でも名を連ねていた山下敦弘監督。公開当時、観賞した周囲の友人たちがみんな良かったと言っていた記憶があり、ずっと観たくって今更ながらやっとこさ観れました。

で、あらすじ。小中学生合わせて全校生徒が6人しかいない田舎の分校に、ある日、一人の転校生がやってくる。その東京から来た男の子がこれまたやたらイケメンで、彼と唯一の同級生となる中学二年のそよ(夏帆)はいろいろ期待してドキドキ。最初は、当のイケメン男子・広海(岡田将生)のちょっと取っ付きづらいクールな雰囲気に翻弄されてはいたものの、一緒に学校生活を送るうち、次第にそよは広海に惹かれていくのだった‥‥。

という感じの甘酸っぱき青春ラブストーリーな話で、田舎の風景とか初恋の感じとか方言(島根弁?)とか卒業とか、いろんな要素がとなりのトトロよろしく郷愁を誘いまくりで、あぁ‥なんかあの頃はキラキラしてたなぁ‥と薄れゆく記憶に想いを馳せ、じんわりすること請け合い映画。主演の夏帆ちゃんはもう普通に可愛いし、ジャニーズ系の岡田くんは悔しいかなカッコ良いし、やたら瑞々しく爽やかスウィートなんだけども、しかし、僕の中の性悪ヒネくれ気質がどことなくそのキラキラ感に反発しているのも確か。何ていうか、これは素材の時点で美味しいのは当然だよっていう感じで、なんかちょっとズルいよ。

青春甘酸っぱ系な映画っていうと相米慎二の作品とかすぐに思い浮かぶけど、本作においてはセンチメンタル度は相米映画とタメ張るとしても、フィクショナル度というかファンタジー度が俄然足りない。別に、異常な事態を起こせばいいっていう訳じゃないけど、山下敦弘はいつしかどんどんウェルメイドな作品を作るようになっていってしまって(っていうか元から?)、いつ何時エモーショナルでワンダーな瞬間が訪れるのか?ってドキドキしてても、ついぞそれが訪れないまま終わっていくケースが近作には多い気がする。修学旅行で東京を訪れた際の見せ場的なCGもちょっとどうなの?っていうぐらいピンと来ないし。「天然」で「コケッコー」っていうぐらいだからもっとめくるめくアホで素敵な展開があってもいいじゃない?ラストに、ワンカットで一年が経過する時間跨ぎのショットがあるけど、それこそ相米的なスケールのデカイ長回しを観たかったな。と、山下監督作には毎回ワリと辛口ですが、これはもっと出来ると思ってるからなので次回も期待です(と、何故かフォローしておく)。

でも、くるりの『言葉はさんかく こころは四角』はとても良い曲。



予告。↓

posted by ケニー at 04:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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