光文社新書から出た、最近結構売れっ子な感じの精神科医、春日武彦氏の新刊です。著者は小説家の平山夢明とも対談などしているように、現役の精神科医には珍しく狂人に対する知的好奇心をあまり隠そうとしない人物というか、結構ぶっちゃけて面白がれる人って感じで僕はそのノリが好きなんですが、これは新書っていうこともあるのか、いまいちどこにも突っ込んでいかないようなサラッとした感じがあってちょっと物足りなかったですね。僕はずっと躁についての本が読みたいと思ってて(単純に事例が面白そうだから)、なかなか良さそうなのがなかった矢先にコレを見つけてホクホクしながら読んだんだけど、不謹慎ながら僕が目当てにしていた躁病患者の面白い事例もそんなに思ったより載ってなくて、かといって学術的に深められてるような感じもなく、ホントに躁についての触り程度っていう内容でした。これを読むと、躁っていう病気は基本的にスゴく分かり易い心性の元に発現してるらしくて、つまり、金とか名誉とか性欲とかのかなり下世話な欲望に動かされてて思ってたよりも俗っぽい。本人たちはそのままノリノリで人生に幕を下ろせればそれが一番幸福かも知れないんだけど、大体、借金苦に陥ったり、周囲の人の信用を失ったりして自暴自棄な事件を起こして逮捕されて、留置場で目が覚めるみたいな救われないパターンが多くて、著者も書いているように「躁の人について語ると、その語り手は鬱になっていく」っていう、躁とは対照的などんよりムードがなんとなく本書を覆っていて、なんか少しへこみました。彼らは僕らと全く異質な人間っていう訳ではなくて、僕らの持っている内なる欲望を最大限に体現しているような存在で、何となくその解放感が羨ましくもあるんだけど、でも著者曰く、彼らはどこか無理矢理テンションをアゲている感じがあって、それは常に躁状態を維持し続けないと全てはオシマイになってしまうっていう不安に苛まれているかのようで、それが痛々しくもみっともない印象を与えると語っていて、自分がそんなんなったらと思うと普通に嫌な気分になりました。
でも、周りを見回すと、なんかに急き立てられてるかのように無理にアゲてる人って割といるような‥‥。
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