2008年05月28日

血と骨に悶絶。

崔洋一 『血と骨』(2004) ☆9.0

山本周五郎賞を受賞した梁石日の同名ベストセラー小説を、ビートたけし主演で映画化。共演に鈴木京香、新井浩文、オダギリ・ジョー、田畑智子、柏原収史となかなか豪華な顔ぶれ。このストーリーも『パッチギ!』同様に在日朝鮮人を描いたモノなんだけど、比べるのは忍びないですが、こっちを先に観てたら『パッチギ!』は観れたもんじゃなかったなあ、と痛感。作り手の意識の有り様が全く段違いです。

舞台は、1923年の大阪。戦争特需に沸く中、多くの朝鮮人が一旗揚げようと済州島から日本にやって来ていて、主人公・金俊平(ビートたけし)もその一人。同じ朝鮮民族が暮らす地域に居を構え、持ち前のバイタリティと漲る闘争心で、彼はそこら界隈で一目置かれる存在になる。そんな中、女手一つで幼い娘を育てながら暮らしていた李英姫(鈴木京香)と結婚し、新たに子供ももうけて家庭を築くが、金俊平は口が裂けても家庭的などとは言えないような自己中心的な男で、他所に別の女を囲って、家にはお金も入れない。たまに帰ってきたかと思えば欲望の赴くままに、子供の前で嫌がる妻を抱くような卑劣漢で、文句のあるヤツには妻だろうが娘だろうが鉄拳制裁も厭わない。家族はもちろん、周りの若い衆も誰も彼には逆らえないまま、ただただ皆、腫れ物に触らないように怯えて暮らしているのだった‥‥。この物語は、その唯我独尊的な怪物、金俊平が老衰で大往生するまでを描いた伝記映画という感じです。

今作で何より圧巻なのは、この金俊平の、最初から最後まで家族や仲間一切を全く顧みないっていうその人物像に尽きます。このテの話を制作する時に普通の意識だったら、最終的に憎み合ってる息子(新井浩文、オダギリ・ジョーなど)らと何らかの和解があったり、奴隷のように扱ってきた妻に対して後悔の念を示すような描写が多少なりともあったりするんじゃないかと思うんだけど、ここにはそういったヒューマニズムやヒロイズムが一切ない。この一貫した金俊平の無頼加減はホントに凄まじく、なんていうか大自然の脅威とか天災とかが象徴する理不尽なエネルギーをこの男は体現してるかのようで、圧倒的な存在感を放っている。

途中のエピソードで、妾として囲っていた日本人の女が脳腫瘍の手術後に寝たきりの植物状態みたいになっちゃって(「あ〜」とか「う〜」とかしか言えない)、その女を介護する金の姿が出てきて、僕は「ああ、この男にもこんな仄かな優しさがやっぱりあるんだなあ」とちょっとホロッときたんだけどそれも束の間、金俊平はその女の無惨な姿を見かねて、結局濡れ新聞紙で彼女を窒息死させるんですよ。「楽にしたった‥‥」って。これは本当ショックだったよ。おそらく、それは金俊平なりの優しさなんだと思うし、そういう風に演出されてもいるっぽいんだけどそれにしてもビビった。これが単純に子守りなんか面倒くさくて出来るかっ!っていう外道が殺したんならまだ理解がしやすいんだけど、金俊平は何か得体が知れない。人間として最低なヤツなのは間違いないんだけど、何なんですかね、この男は?『ミリオンダラー〜』な感じの深い葛藤があるようでいながら一方では全く何の葛藤もないような超然ぶりも感じられて、なんつうか理解の範疇を超えた存在っていうかある種の神話的な人物っていうか。似たような人間って他の映画ではあまり思いつかないけど、何となく『捜索者』のジョン・ウェインとかそんな感じかなあ。西部劇におけるビッグブラザーな人物とか近い気がしました。それにしたってこの人間像は際立って凄いなと思う。梁石日の自伝的な作品らしいけど、こんなのが親父だったらと考えるだけで、恐ろしい。



http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=320649
タグ:邦画 戦争
posted by ケニー at 16:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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